今回は菩提酛の日本酒を飲み比べするのと、「菩提酛とはなんぞや?」ってのを解説していきます。ぶっちゃけ菩提酛と水酛の違いなどハッキリしない点もあるんですが、全く菩提酛造りのお酒を飲んだことない人にもわかるように解説していきます。
ちなみに、菩提酛については以前Youtubeで「奈良のお酒8本飲み比べ」で軽く菩提酛について触れましたが、その時と今では菩提酛と呼ばれる日本酒の前提が少し変化したので、菩提酛についてちゃんと説明しますね。
今回は油長酒造(鷹長・風の森)・今西酒造(みむろ杉)・御前酒蔵元辻本店(御前酒)の3つの酒蔵の菩提酛を集めたので、ぜひ最後までご覧になってください!
ただ、今回は飲み比べの味は言いません。何故なら、菩提酛を説明するだけで、酔っ払ってるゆびなしには精一杯だから・・・御自愛ください!
菩提酛について
菩提酛を説明する前に先に知っておいてほしい知識があります。菩提酛には大きく分けて2つ、岡山式と奈良式が存在する点。菩提酛のレジェンド岡山県の辻本店さんが1986年に御前酒で菩提酛を商品化。逆に正暦寺の奈良式は1998年に正暦寺が酒母製造免許を交付されるところから始まります。これが現代の菩提酛のはじまりです!
「菩提酛っなんぞや?」ってことなんですが、日本最古の酒母が菩提酛です。そしてそれを酒母として使わずお酒として使うのを菩提泉と呼びます。日本酒発祥の奈良県のお寺である正暦寺が菩提泉という僧坊酒を販売していました。それを元として酒母して使うのが菩提酛です。
なぜ菩提酛とする必要があったのかは、後々説明しますが、菩提泉の欠点はお酒の量を作れないことです。逆に菩提酛として酒母にすると13倍のお酒の量が造れる。めちゃくちゃ効率が良いんです。
酒母は日本酒の3段仕込みでスターターとして使われます。必ず3段仕込みである必要性はなく、4段仕込みもありますし、それ以外もあります。その1段目の土台に当たるのが酒母です。1段目は初添えと呼ばれるのですが、その母体となるのが酒母で、そこに酒母の2倍量程度の蒸米・米麹・仕込み水を加えるのが1段目。
数は多くないですが、1段仕込みとして販売されている日本酒も存在します。例えば、千葉県いすみ市にある木戸泉酒造さんが醸すアフスシリーズが1段仕込みになります。あとは、最近名前が変わってから全然飲めてないんですが、新潟県の苗場酒造さんが醸す、昔の「醸す森」、今は「ゆきのまゆ」も1段仕込みになります!
2段目がまたその倍、3段目がさらに倍と倍倍倍となっていくわけです。まさに「倍率ドン!さらに倍!」「はらたいらに全部!」って感じですね。
菩提酛というのは、現代に復活されるまでは、文献の中の世界でしか残っていない存在。
酒や酢の製造法を記した室町時代の御酒之日記(ごしゅのにっき)というのがあるんですが、そこには菩提酛の記述はなく菩提泉(ぼだいせん)の記述がありました。もちろん正暦寺が造るお酒なんですが、段仕込みを行わない酒造りで夏に造られるお酒なんです。これが発展して酒母という存在が出来上がりました。それが菩提酛です。
日本酒といえば寒造りというイメージがありますが、室町時代は秋に造ったり、春に造ったりもしていたそうです。だから菩提酛も元々は暑い夏に仕込むのに向いてるお酒なんです。そやし水を作るための適切な水温が30〜32℃という夏にバッチリの菩提酛。実は寒造りというのは江戸時代にできたもので、それまでは四季醸造であった文献があちらこちらにあるんですよね。
菩提泉・菩提酛だけでなく、段仕込み・諸白つくり・火入れ・酒母というは正暦寺で生まれたので、日本酒発祥の地が奈良県と言われている理由です。
ちなみに「0段仕込みの御酒之日記にある菩提泉は飲めるの?」って聞かれそうなので、先に答えると飲めます。菩提酛研究会の菩提泉。油長酒造さんの水端(みずはな)というブランドが御酒之日記の記述を元に造られた日本酒です。今は倒産してないのですが元々は安川酒造さんが菩提泉を復活させました。
次に出てくる文献は、奈良の興福寺の多聞院日記で正暦寺の酒造りのことが書かれています。興福寺というのは藤原家が作った寺なんですが、春日大社も興福寺だったので、すんげぇデカイ寺なんです。ざっくり言うと興福寺が大きくなり過ぎて、新しいの作らんとヤバいって出来たのが正暦寺。めちゃくちゃ雑やけど、ざっくり言うとそんな感じです。
そして、正暦寺もバカデカくなり過ぎて、運営費が莫大になってきたんです。藤原家の力が強かった鎌倉時代までは国からお金が出ていたのでいいんですが、室町時代になり戦国時代に突入していくと、正暦寺の運営に現在のお金で年間約10億円くらい必要になり、お寺でお金を用意しないといけなくなった。
こっからは半分想像の世界です。だから、菩提泉なんてアホらしくてやってられなかったんでしょう。菩提酛にして段仕込みで「倍率ドン!さらに倍!」大穴狙いで「篠沢教授に全部!」って気分だったはずです。さらには酢になんぞなられたらタマランチ会長と63℃で火入れ。諸白造りで高級感を出せーーー
もちろん、庶民のイッパンピープルに売ったら儲からないので、パパ活ならぬ公家活!
京都の公家さんたちに売っていたとか・・・もちろん、その当時の話ですから、夏に仕込んだら全体の酒の量が少なくて、普段より重宝され通常より高く売れたはずです!
あくまでも半分想像の世界です(笑)
ってことで、次は菩提酛・菩提泉・水酛の元となるそやし水について解説していきます。
そやし水って何やねん?
菩提泉や菩提酛を作る上で一番はじめにやるのが、そやし水っていう酸性の水を作ることです。いわゆる乳酸発酵させているわけですが、ゆびなしがピンと来たのが、発酵した水を楽しむ韓国伝統料理の水キムチ。三国志の時代以前から食べられているから、本当の昔からのキムチは辛くなくて、発酵させていたんです。今は米の研ぎ汁で温度を30℃くらいで作ることが多い水キムチ。どこか通じるところがあるので、菩提酛のお酒を飲む時におつまみとして食べてもめっちゃあいます!
菩提酛には奈良式と岡山式の違いがあります。そして、奈良式でも初期の御酒之日記を参考にしたやり方と現在の作り方は微妙に違います!
サクッと画像で説明しますね。旧奈良式は御酒之日記にある通りに水におたい(蒸し米)と生米を入れてました。

でも今は、おたい(蒸し米)は使ってなく。水と生米に正暦寺由来の乳酸菌で安定してそやし水が作れることを発見。奈良式の特徴はそやし水が出来る時間が2〜3日と早い!

ここからは1番初めに成功した岡山式の菩提酛の解説図

生米を使う奈良式に対して、米麹を使う岡山式はそやし水が出来上がるまで10〜20日と時間が掛かります。辻本店の現在の杜氏は、女性杜氏の辻麻衣子さん。先代杜氏の原田杜氏が発見したのが岡山式の菩提酛です。
どちらが正しいとかでなく、色々な技術が切磋琢磨してるのが素晴らしい。
辻本店さんは、天使の心でそやし水の作り方を惜しげもなく、色々な酒蔵に公開している。だから、今はよく菩提酛・水酛の名前を色々なところで聞くようになりました。
しかも新興勢力の雨降の菩提酛は、生米をそやし水に浸しっぱなし。生米を取り出さず、そやし水を加熱殺菌する奈良式と岡山式のいいとこ取りしたハイブリット手法を考案。ホンマに菩提酛の未来はすごい世界になるかもしれません。
奈良県の菩提酛について解説
菩提酛と語る上で外せないのが、菩提酛の知名度を一気にあげた「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」の存在。以後、「菩提研」と短縮して呼びます。言い出しっぺは風の森で有名な油長酒造さんです。御酒之日記にあった正暦寺の菩提泉に注目して、声をかけて出来上がったのが「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」です。
1996年、ゆびなしが20歳の時です(笑)
奈良県の酒蔵15蔵(現在7蔵)
正暦寺
奈良県工業技術センター
天理大学(軌道に乗って抜けます)
ヒグチモヤシの樋口松之助商店
加藤百一(カトウモモイチ・カトウヒャクイチ)読み方がどちらが正しいか不明
ただ、日本酒業界も経済的に厳しくて古い世界。倒産した酒蔵もあるし、他の菌を自社の酒蔵に入れる恐怖感。日本酒・みりん・醤油・味噌は菌との共存なんで、得体もしれん菩提酛という古くて新しい物を受け入れられない酒蔵もあるわけで、7蔵になったってことです。
まずは、正暦寺由来の乳酸菌と天然酵母を探すわけです。乳酸菌は正暦寺の岩清水から発見。ただ、天然酵母は清酒に使えそうなものはなく、奈良県工業技術センターの山中信介(ヤマナカシンスケ)さんが改良酵母を作り菩提酛に利用。
ちなみに、奈良にいる日本酒好きさんに知らない人はいない存在で、奈良の日本酒といえばここ。猿沢池から少し歩いたところにある「なら泉勇斎さんのオーナーが山中信介さんです。」息子さん、いっつもベロベロになるまで飲んでるけど体は大丈夫か?ってくらい酒が好きな家系です。
1999年のノストラダモスの大予言がある年から醸されるわけですが、1998年に正暦寺が酒母製造免許が交付されるという異例の措置があるんです。そして次の年から正暦寺を中心とした菩提酛の酒母造りが始まる。
このあたりのことは、奈良式も岡山式も含め日本醸造協会誌に詳しく乗ってます。論文検索と普段からしてる人はJ-STAGEとかで検索してみくてください。
まず基本の考えとして、元もないことを言うと、現代の技術であれば乳酸菌は売ってます。水に売ってる乳酸菌を入れるとそやし水は擬似的でも作れます。そこで国もそうですし、奈良県としても補助金を入れてるわけで、菩提酛と言う商標特許と菩提酛の造り方の特許を奈良県が申請して通します。
ここで不思議なのは、奈良の菩提研以前に御前酒は菩提酛として商品化してます。しかし、菩提研から辻本店さんに電話で連絡すると、「うちは特許をとってないのでどうぞ」と神対応をしてくれたんです。それがなければ今の菩提酛ブームはなかったはずです。想像でしかないんですが、日本酒業界ってみんなで上がろうぜ・・・みたいな感じなんですかね。ホンマに泣けてきます!
ここから特許期間中の20年は奈良の菩提研の独占状態になるわけです。もちろん、今は特許が切れてるので菩提酛と名乗るところも増えましたし、菩提研の酒蔵も色々と独自の菩提酛をリリースしています。それまでは水酛と名乗ったりしていたので、本当の水酛と菩提酛の違いがよくわからなくなったと言うこともあります。
菩提酛清酒祭について
毎年1月上旬に菩提酛清酒祭が正暦寺で行われます。今や酒母造りも昔みたいに酒蔵が関与して造るスタイルでなく、正暦寺だけで作れるようになり、今までの菩提酛を違う感じになってます。
まずは菩提酛清酒祭でそやし水が作られている状態で、甑で米を蒸し冷やしてそやし水に戻す。そこまでを正月に行う。その酒母を各菩提研の酒蔵に配り、菩提酛として醸す。これが正式な菩提酛です。そこで作られた菩提酛には金の菩提酛ラベルを貼って出荷されます。ただ、特許をとった時のような厳密な正暦寺リスペクトな菩提酛は、どうしても正暦寺が作れる酒母の限界があり、球数が少ない。
そこで特許が切れてからは、独自の菩提酛研究と自分達で造る菩提酛の発展で、今の状態があるってことです。
元々いえばね、先に成功していた辻本店さんがルーツなわけで、奈良式で言うと紹興酒がヒントになっていると言うワールドワイドな酒。日本酒ってホント楽しくて面白い世界です!
菩提酛まとめ
奈良式・岡山式どちらも良い悪いはなく、面白い・面白くないの世界なんですよね。それを言うとどちらもおもしろい!
世界最古の酒母である菩提酛ですが、今はみむろ杉の新蔵が木桶菩提酛のみの酒蔵が登場したり、多聞院日記・御酒之日記を参考にしたお酒を風の森が醸したり、岡山式でいえば御前酒は全量菩提酛で全量雄町で醸す白熱ぶり。
飲み手としても、ただ単に乳酸系のヨーグルトっぽい感じで。甘酸っぱいお酒なんて、単調すぎて誰も求めてない。だからこその菩提酛らしい力強さと、甘酸っぱい感じを独自に表現できるお酒を求めてる。しかも、蔵ごとに甘酸っぱさを全面に出してくる酒から、かなり奥深くにヨーグルトっぽい感じを出す酒まで、多種多様な菩提酛や水酛があります。
今日紹介した菩提酛だけでなく、日本酒の世界に生酛・山廃・速醸にプラスの菩提酛が一つの選択肢に当たり前になってくるのは間違いないでしょう。
だからこその、今回のラインナップでした!
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